悲しみを吸い上げて咲く花、そのお庭の話

この世に「ゴミ箱」がある事について昔からずっと考えてきた。
多分それは「必要悪」とかいうものらしく、どこかで犠牲が生じているのかなと思った。
「ゴミ箱」はどうしたら報われるんだろうって。そう思って書いた物語。
なんだか「幸福の王子」に少し近くなったかもしれない。

悲しみを吸い上げて咲く花、そのお庭の話

天地創造の時代、この世界は光と闇との二つに分かれた。
大天使ルシフェルの決断。それが、 「私が闇を担当する」
そう言って大天使ルシフェルは闇の中に降りて、堕天使と呼ばれるようになった。

闇の世界には、世界中の人々から毎日生み出される悲しみ、
怒り、憎しみ、諦め、恨み、などなど、ありとあらゆる負の感情が、落ちてくる。
そうなると流石に、いくら元大天使でもそれらを捌くのが大変になって来た。
そこで堕天使は、闇の世界に自分の化身として無数の花を植えた。

お前は悲しみ お前は怒り お前は諦めを吸い上げて開け

光届かぬこの世界でも 私の化身として咲き誇るべし

当然、光が届かない世界なので、花の色は見えない。
がしかし、やがて花達はそれぞれ、吸い上げた感情の色に染まり、
闇の中には不気味に華やぐ花畑が出来上がった。

悲しみは青く 怒りは赤く 諦めは白く 恨みは紫に 嫉妬は黄色に
今この闇の世界に青く咲いているのが、悲しみを吸い上げて咲く私。

堕天使の化身として造り出され
地上の人々が落としていく悲しみを吸い上げてこの命を全うしていく運命
悲しみを吸い上げて枯れるだけの、ゴミ捨て場みたいな運命。

そんなある日、一匹の蝶がこの世界に迷い込んで来た。

「あれ?ここはどこだろう?こんな真っ暗なところ初めてだなぁ。
えーっと、お花、お花、お花はあるかなぁ?」

蝶は、よもやまさか自分が迷い込んだ場所が闇の世界だなどど知らず、花を探し回る。
花よ、花よ、どこにいるの そばにいたら返事をして

やがて蝶は、私達の咲いている花畑を見つけ、こちらへやってきた。見事な程美しい蝶だ。
見つけたぞ、綺麗な花 こんなに綺麗な青い花は初めてだ
そなたの名前を教えておくれ 嫌でなければ蜜を吸わせて
誰に向かって、と思うや否や、なんと蝶は私に止まった。

「あなたはどこから来たの?」 私が訪ねると蝶は話し出した。

「えっと、なんて言ったらいいかな、
別のお花畑から迷い込んで来たんだけど、全体的に白い光に包まれた場所で、
あ、そうそう。お日様のかけらが足にくっついてきたみたい。これを見て、これがある場所。」

蝶は自分の足についている白や黄色に光るものを差し出した。
これが噂に聞く光なのか。私は光を見た事がなかった。

「あなたは光の世界からきたのね。」 蝶はうなづいた。

それなら私に触れてはいけないわ この青は悲しみの色
私は堕天使の化身として生まれ 地上人の悲しみを吸い上げて
咲いているから、蜜をあげたら あなたはきっと死んでしまう
綺麗だなんて嬉しいけれど 悲しみの毒に塗れた青よ

私はただ、この世界に落ちてくる毒を持った感情を吸い上げる花。
ここに咲いている花たちはみんなそうなの。
あの子は怒りの赤い色。あの子は諦めの白い色。
みんな地上から落ちてきた毒のある感情を吸い上げて、その色に染まるの。

私は悲しみを吸い上げて咲く青い花。吸い上げるだけ吸い上げて、悲しみの毒に塗れて枯れていくの。
そうすることで、地上の平和が保たれているだなんて、誰も知らないのにね。
私は一生毒塗れ。蜜を飲んでもらう資格なんかないのよ。

しかし、蝶は言う。

その青はそなたが吸い上げては 涙を花として清めた色
だからこんなに綺麗な青い花は初めてだ。
あなたは、あなたは地上のどんな花よりも美しい!

そして蝶は、私の蜜を飲み始めた。
「バカ!あなた死ぬわよ!やめて!」
それでも蝶はやめなかった。致死量がどれだけだったのか、分からない。蝶の身体はどんどん青い色に染まっていった。
「いいんだ。こんな美しい花に出会えたんだから。それに、もう帰る道も分からなくなってしまったもの。」
弱々しく蝶は呟いた。

明くる日、私は眩しく光る場所で目を覚ました。
辺りを見回すと、見覚えのある赤い花、紫の花、白い花、黄色い花、私と同じ青い花。。。

「ここはどこなの?」戸惑う私に大天使ミカエルは微笑んだ。

「ここは、本当に美しい花だけを集めたお庭なのよ。
そしてあなた、もう悲しみを吸い上げる必要なんかないわ。」

隣では、青い蝶が嬉しそうに舞っていた。

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